<つま先立ちの世界>

ああもう、私は一体何をしているのかしら。
目の前には、俯き加減で堅く目を瞑った少年。

『ねぇ、目をつむって』

さっき自分の口から出たセリフが、まるで他人事のように頭にリフレインする。
『私がいいって言うまで、開けちゃだめよ』
『…分かった』
多少驚きはしたものの、少年は素直に従った。
こんなだから、簡単に騙されちゃうのよ。
脳裏にぼんやりと、少年の頬にくちづけをした少女の顔が浮かんだ。
何だか頭がクラクラする。
お酒のせいかしら。
そもそも私は何をしているのかしら。
思い出せ。
思い出せ私。

昼間、たまたま川で溺れていた女の子を助けて。
お礼と言ってその娘の家でごちそうやらお酒やらを振舞われて。
これまたお礼と言ってその娘はリーフの頬にくちづけをして。
その後ずっとべったりとくっ付いて離れない娘を見るのが嫌になって。
出された飲み物をぐいぐい飲んで。
少し気分が悪くなったので、夜風に当たって来ると言って家を出て。
暗くなって星明かりだけの川辺でぼけっと水面を眺めて。
しばらくして気付いたら、リーフがここにいた。

『――――』
私に向かって何か言ってるけど、頭がぼんやりして理解できない。
ああ、来てくれたんだな。
と思ったのだけ覚えてる。

『ねぇ、目をつむって』

は?
リーフの目が点になった。
いきなりだもの、驚いて当然だわ。
するりと、何のためらいもなく出たセリフに驚いているのは、こちらも同じ。
『……これでいい?』
少年はあっさりと従った。
『私がいいって言うまで、開けちゃだめよ』
するすると出てくる言葉はまるで私じゃない私が話しているみたい。
でも、やっぱり、私。
『…分かった』
少年が、その言葉に素直に肯う。
私は一歩、二歩と少年に近付いて、顔を上げた。
思っていたよりその顔は高いところにあり、
思っていたより伏せられたその睫毛は長かった。
そっと踵を上げて背伸びする。
ああもう、私は何をしているのかしら。
馬鹿なことはやめて。
だけど、ぼんやりとした頭の中で響くその声は私のカラダには届かない。
本当は、やめて、なんて思ってないんでしょう?
そっとくちびるを寄せたそのとき。

まさに至近距離で、少年のまぶたが開かれた。

「〜〜〜〜〜〜〜!!」
「ジャ、ジャスミン?」
慌ててばっと後ろに下がる。
ぼんやりした頭が一気に醒めた。
わわわ私、一体何を?!
リーフは困惑して顔が真っ赤だ。
そういう私の顔もきっと真っ赤になってるはず。
「え、えーと」
何をやっているんだ私。
言い訳が何も思いつかない。
「え、えーと、あの」
リーフも何を言っていいか分からないみたい。
もう頭の中がめちゃくちゃだ。
「……め、目開けちゃダメって言ったじゃないっ。リーフのばかぁっ!」

ばっちぃぃぃぃぃぃん

ものすごくいい音のビンタを置き土産に、私は走り出した。
ああもうばかばかばか。
だからやめとけばよかったのに。
一体どうしてあんなことをしようとしたのか。
もうリーフに合わせる顔がないじゃない。

(きっとお酒のせいだわ……)
苦くて、ほんのり甘い香りが一瞬よみがえる。
私が飲むには、まだ早過ぎたみたいだ。

<end>







(反転で適当あとがき↓)

書いてるこっちが恥ずかしかったよゴブアッ(血を吐く音)
とりあえず件の娘さん、ほっぺちゅーはバルダにもしていたと思われますが、
ジャス子にとってはどうでもいい or 視界に入ってなかった設定で。