<memento>

気持ちよく晴れた日の午後。
城の庭園に降りそそぐ暖かい日差しと、それを一身に受ける大きく枝を広げた木。
その木陰、僕の目の前には出来たばかりの小さなお墓があった。


ジャスミンが突然、
「お墓を作るから手伝って」
と言ってきたときは驚いた。
僕が慌てて、
「誰か亡くなったのかい?」
と尋ねると、彼女は目を伏せ、少し躊躇ったあと口を開いた。
「デインの、お墓よ」
僕は一瞬頭が真っ白になり、次の瞬間、胸に鈍い痛みが走るのを感じた。
正直に言おう。
僕はこのときまでデインのことを忘れていた。
共に旅をした少年。
僕らを、裏切った少年。
そうだ。忘れていたのは、忘れたかったからだ。
「お墓って……亡骸もないのに」
言いながら、僕は自分がおかしくて仕方なかった。
ダッテボクガコノテデコロシタノニ。
少女は小さな布包みを僕に差し出した。
「これを代わりにしようと思ったの」
白い布に包まれたそれは、見覚えのあるペンダントだった。


僕らは出来るだけ静かな、あまり人が来ない場所を選んで『亡骸』を埋めるべき穴を掘った。
それぞれの手を泥だらけにしながら、その間、ジャスミンはずっと黙ったままだった。
傷だらけだけど、丁寧に磨かれていたペンダント。
いつのまにジャスミンはあのペンダントを持っていたのだろう。
僕は確かに、彼女が怒りと共にそれを地面に叩きつけるところを見た。
『君に似合うと思って』
デインの言葉が蘇る。
『ジャスミンはいいこだね』
『僕も君達の仲間に入れてもらえるように頑張るよ』
デイン、君の言葉に本当のことはひとつもなかったのだろうか。


「そろそろいいかしら」
「そうだね」
柔らかい土の上にそっとペンダントの入った布包みを置く。
少し待ってその上に土をかぶせ、最後にジャスミンが作った小さな花輪をのせた。
墓標の無い小さな墓。
僕は目を閉じた。
デインと出会って、デインがいなくなるまでの記憶を辿った。
影の憲兵団にさらわれたところを助けてくれた。
レジスタンスの隠れ家で話した。
一緒に旅をした。
少し、嫉妬したこともあった。
共に戦おうと誓った。
本当は敵のスパイだった。
戦って、僕が倒した。


それが、真実。


目を開けると、ジャスミンはしゃがみこんだままじっと花輪を見つめていた。
膝の上で握られた小さな手も、ぴくりとも動かない。
僕は唐突に、彼女は待っているのだ、ということに気付いた。
何を?
デインの言葉を。
裏切られたという事実を覆す言葉を。
永遠に得られない『真実』を求めて、彼女は泣くこともせず墓前にいるのだ。


「ジャスミン」
僕は言うべき言葉が見つからず、
ただ、彼女の手を握ることしかできなかった。



<end>