<モラトリアム>

「……おはよう」
ガタっと古い木のドアが開いて、寝ぼけまなこをこすりながら少女が部屋に入ってきた。
「おはようジャスミン。寝坊するなんて珍しいな。大丈夫か?」
俺は手入れをしていた剣から顔を上げ、からかい半分心配半分で訊いた。
「うん……久しぶりに屋根のあるところで寝られたから、気が緩んだのかしら」
「最近野宿ばかりだったからな。山小屋を見つけられてよかった」
本当ね。少女は気持ちよさそうに背中を伸ばした。
「リーフは?」
「周りの様子を見て来ると言ってさっき出ていった」
「そう…」
「ほら、朝飯だ。しっかり食べておけ」
俺は剣を置くと、テーブルの食事に掛けておいた布を外した。
パンと昨夜の残りのシチュー。それと、さっき外で見つけた野生のりんご。
「おいしそう」
少女は黙々とそれらを食べ、俺は黙々と剣を磨く。
「ねぇ、バルダ」
「ん、なんだ?」
顔を上げるとパンとシチューを綺麗に食べ終わった少女がこちらをじっと見ていた。
手には艶々と光るりんご。
それが自分に差し出されている。
こんなまっすぐな瞳、どこかで見たことがあるな。
ふと思ったとき、少女がこれまたまっすぐな声で、
「あのね。あれ、また作って?」
一瞬何のことか分からずぽかんとしたが、すぐに思い出す。
「ああ、いいとも。貸しなさい」

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皮を剥かないまま、ナイフでヘタから放射状に切り分けていく。
途中で思いついて、2つだけ少し大きめに切った。
種の部分を切り取って、皮に慎重に切り目を入れていく。
その一連の作業の間、少女はじっと俺の手元を見ていた。
「こら、そんなに顔を近づけると危ないぞ」
「はーい」
こんなふうに、少女はときどき子供じみた「お願い」をしてくる。
それがもうひとりの連れがいないとき、
つまり、俺とふたりきりのときにしか出ないということに気付いたのは、つい最近だ。
16歳。
大人でも子供でもない時期。
「そら、できたぞ」
果汁のしたたるナイフを置いて、皿を少女の方に向けた。
「わぁ……」
少女が歓声をあげた。
皿の上に並んだのは、りんごのうさぎ達。
赤い皮が耳となってピンと鋭角に立っている。
少女は大きめの2つを指さして、
「このコとこのコがお父さんとお母さんなのね?」
尋ねる目がキラキラしている。
「そうだ」
頑張った甲斐があったと、こちらも嬉しくなってくる。
「あんまり可愛いから、食べるのがもったいないわ」
「また作ってやるさ」
言って少女の頭を撫でようとして、引っ込めた。
16歳。
大人でも子供でもない時期。
手を浮かせたままの俺に、少女が、ん?と目で問う。
その手には既にカラダが半分無くなったりんごのうさぎ。
俺は目が点になった。
同時に笑いが込み上げてきた。
たくましいもんだ。
俺は不審な目の少女を置いて、腹の底から大笑いした。

<end>