<少年>

或いは<a_boy>

「ねぇ、千代ボー?」
夕暮れの縁側。
私は座った膝に頬杖をついたまま、庭先で薪割りをしている背中に話し掛けてみる。
「何スかー、加代姉?」
少年は鉈を振り下ろす。
小気味良い音がして、丸太が真っ二つに割れた。
「千代ボーも、男の子なんだねぇ」
ガゴッ。
鉈が思いっきり地面にささった。
結構深いみたい。抜くのが大変そうだわ。
「な、いきなり何言ってるんスか」
耳まで真っ赤になって少年は振り向く。
「うーん、なんとなく」
へらっと笑って見せる。
うそ。
急に伸びた背丈。
がっしりしてきた肩や腕。
地面をしっかりと踏みしめる、まだまだ大きくなりそうな足。
今まで気付かなかったのか気付こうとしなかったのか。
「男の子、なんだねぇ」
ぽつり。
今度は自分に呟く。
「酔ってるんすね、加代姉」
少年が呆れ声で鉈を引き抜く。
「今日は酔ってないわよ」
「酔ってるっス」
少年はあちらの方を向くと薪割りを再開した。
カコン。カコン。
リズムは寸分も乱れない。
「じゃあ私は?」
鉈を振るう音に負けないように声を張り上げる。
「私は、女の子に見える?」
カコン。
音が止んだ。
少年は背中を向けたまま。
「加代姉が、酔ってないときに言うっス」
言って、そこらに散らばった薪を拾い始めた。
「酔ってないわよ」
「酔ってるっス」
少年は目を合わせない。
私はムキになって、
「ねぇ、千代吉?」
どうしたのよ、と問おうとしたとき。
「オレ、村長に呼ばれてたの忘れてたっス。ちょっと行って来るっス」
断ち切るように少年は言って、私の前に集めた薪を山に積むと、村へ下りる道へ走って行ってしまった。
後ろ姿はあっという間に見えなくなり、代わりにカラスの群れが境内の木を目指して来るのが見えた。
「……千代吉の、うそつきィ」
ぱたんと後ろに倒れてみる。
縁側の板張りは、昼間のぬくもりをかすかに残していて気持がよかった。
千代ボーのばぁか。
悔しいから、帰って来るまでここでこうしていてやろう。


<end>